一家11人が謎の死を遂げた理由 ブラリ事件

2018年7月1日朝、インド・デリー北部のブラリの住居兼店舗で恐ろしい事件が発覚した。一家11人のうち10人が同じ部屋で首を吊って息絶えており、残る1人もベッドの側で亡くなっていたのである。それは誰が見ても明らかに異常な状況で、第一発見者はあまりのショックでしばらくその場に立ち尽くしたという。

最近、Netflixで『ブラリ事件: 11人家族集団死の真相』が公開された。ブラリ事件と言われてもわからなかったが、『11人家族集団死の真相』というサブタイトルでどの事件のことなのかはすぐにピンと来た。日本でもこの事件の第一報は結構大きく報じられたものの、その真相に関する記事はとんと見かけた覚えがない。だからちょっと気になっていたのだ。

見始めてすぐ、続報がなかった理由が分かった気がした。あまりにも陰惨で悲惨な状況、現地で報道が加熱しすぎて無関係の人々を犯人扱いするようなメディアスクラムが起きていた。そして明らかになった『真相』も、正直なところあまりに奇怪な内容だった。

『ブラリ事件: 11人家族集団死の真相』はブラリ事件の詳細と、そこに至るまでの経緯、事件後に起きたことを警察や一家の隣人・友人など関係者のインタビューを通してつまびらかにしている。またこの事件は現場の動画がネットにリークされて大騒ぎになったという経緯があり、作品中にはさすがにその映像は使われていないが、捜査や葬儀の様子など、ややショッキングなシーンも少なくない。

House of Secrets: The Burari Deaths | Official Trailer | Netflix India
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事件の発覚

一家は牛乳などの販売店を営んでおり、普段なら朝5時には始業していた。しかし、その日は朝7時になっても店が開かず、不審に思った常連客や近隣住民が電話をかけても誰も出ない。住居の方にまわると玄関のドアは施錠されておらず、呼び掛けても誰も出てこない。事件の可能性を考えた隣人たちが意を決して中に入ると、階段を登った先に思いがけない光景が広がっていた。

10人もの人間が並んで首を吊っていた。うち9人は円を描くように並び、そこから少し離れた場所に1人。全員が目隠しをされて両手を後ろ手に縛られており、天窓の格子から色とりどりの布で吊るされていた。さらに別の部屋には、やはり目隠しされて首を締められたような跡の残る老女が倒れていた。

遺体はこの家に住む11人家族のものだった。たった1人、ベッドの脇に倒れていたのは一家の母、ナラヤニ・デビ(80)。首を吊っていたのはナラヤニの娘プラティバ(57)、息子ブヴネシュ(50)とラリット(45)、プラティバの娘プリヤンカ(33)、ブヴネシュの妻サビタ(48)とその子供3人、ラリットの妻ティナとその子供1人だった。80歳の老人から12歳の子供まで、3世代11人の家族が一夜にしてあまりにも奇怪な死を遂げたのである。

Netflixより引用

事件の一報はすぐに警察に届けられたが、警察が現場に到着する前に、事件現場を撮影した映像がインターネット上にアップされ、事件はあっという間に人々の知るところとなった(「Burari Deaths」などで検索すると、動画そのものはともかくスクリーンショットは簡単に見つかる。おすすめはしない)。結果、現場周辺には数千人もの野次馬が集まり、多数のメディアが駆けつける大騒動となってしまったのである。

事件は『恐怖の家』と過熱気味に報じられ、凶悪な殺人事件なのかそれとも自殺なのか、自殺だとしたら原因は何だったのかが議論され、果ては家の壁から突き出ていた空気孔が11個であることと事件との関連までが取り沙汰されたり、一家を惑わせた『宗教的指導者』として無関係な女性が追いかけ回されたりした。

幸福な一家に何が起きたのか?

警察の捜査や司法解剖により、一家は自殺したものと考えられた。しかしナラヤニたちとは別居していた兄弟たちや一家の友人たちは一家は仲良く幸福の中にあり、「自殺なんてするわけない」と訴えた。実際、事件の直前にはプリヤンカの婚約披露パーティーが大々的に行われたばかりということもあり、多くの人々がこれを支持して警察の不正を訴えるデモが行われた。

謎だらけの事件を解く鍵となったのは、現場から発見された11冊の日記だった。警察が日記を読み解くと、次第に一家の異様な状況がはっきりとしてきた。

日記には家族それぞれへの事細かな指示が書かれており、日常的なことから仕事、投資先まで家族のあらゆることを指図する内容だった。事件前、最後に書かれていたのは事件に関する内容で、それによれば、一家はあの夜、父親の霊を呼び戻すための『儀式』を行っていたようだ。目隠しや首吊りもその記述どおりに行われており、高齢の母親だけがベッドの側に倒れていたのは、彼女が自分の足で立てない状態だったからだという。

Netflixより引用

日記の記述から見るに、これらの指示を出していたのはラリットで、家族はその指示に従えば何事もうまくいくと考えていたようだった。インドでは今も家長制が根強く生きていて、一家の主人たる父親が家族の全てを決定するという風潮が色濃く残っているという。

かつて、この一家をまとめていたのはナラヤニの夫ボパル・シンだった。しかし彼は2006年、事件の11年前に亡くなってしまった。父親の死後、バラバラになりそうだった家族をまとめたのは三男ラリットだった。彼はもともと冷静で賢い男だったというが、家族が彼を強く信じたのは別の理由があった。亡くなったボパルの霊がラリットに降りて来て、生前のような声や態度で一家に指示を与え始めたのだ。

それが実際どのようなものであったかは不明だが、家族は父親の霊がラリットを通してメッセージを伝えていると信じ、その言葉に従った。いわば家庭内宗教である。

警察が日記の文字を解析したところ、書いたのはラリットではなくプリヤンカらだったという。一家は無学ではなく、ラリット夫妻は大学を卒業していたほか、プリヤンカは大学院で学び大企業に勤めていた。高齢の母親はともかく、孫世代はPCやスマホを使う今時の人間だ。だがそんな孫世代でさえ、『ボパル』の言葉を信じ、ラリットに従ったのである。

日記には、『儀式』で首を吊っても父親の霊が助けてくれるとの記述が残っていた。家族はそのラリットの言葉を信じて自ら『儀式』に身を差し出したと思われるが、年若い子供達は口に布を押し込まれていたというから、もしかすると半ば強制的だったのかもしれない。『儀式』を終えても父親の霊が現れることはなく、そのまま全員が亡くなった。

Netflixより引用

『ブラリ事件: 11人家族集団死の真相』では、行き詰まりと終焉を予感したラリットがこの集団自殺を計画した可能性を指摘している。きっかけは自らが関わったプリヤンカの婚約で、外部の人間、つまりプリヤンカの夫が家族に加わることで、家庭内の異常な状況が白日のもとにさらされてしまうのではないかと恐れたのではないかというのだ。また、ラリットが過去に巻き込まれた事故や事件(火事を装って殺されかけ、その後数年間ラリットは言葉を一切発しなかったという)のトラウマの影響も指摘されている。

正直この結論には微妙なところを感じたのだが、番組内でも指摘されている通り、一家が皆死んでしまった以上、本当のことなんて永遠にわかりっこない。製作者はこの番組の意図の一つを「視聴者に『こんなことは自分の家族に決して起こらない』というふりをするのは簡単だと示す」ことと述べている。一家を死に至らしめたのは、どこにでもありふれた家族のダークサイドだったのだろうか。

参考
ブラリ事件: 11人家族集団死の真相(Netflix)
A Family of 11 Died in a Mass Suicide Three Years Ago. A New Netflix Series Shows Why It’s Not Over Yet. (VIce)

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