Netflixの『未解決ミステリー』のシーズン3の8話『14号室の幽霊』は、とある母子が引越し先のアパートで心霊体験をし、その幽霊の正体を探っていく……という話なのだが、その中で思いがけない名前に出会った。それはキャメロン・フッカー。妻と共謀してヒッチハイク中の女性を誘拐し、7年間も自宅ベッドの下の箱に監禁・暴行を続けた男だ。
コリーン・スタン誘拐事件
1977年5月19日、米オレゴン州からカリフォルニア州の友人宅に向かうため、コリーン・スタン(当時20歳)はヒッチハイクをしていた。2台の車を見送り、彼女が乗り込んだのは青いバンだった。その車には、小さな赤ちゃんとその母親が同乗していたからだ。
だが、その選択は間違っていた。車の運転手キャメロン・フッカーとその妻ジャニスがコリーンを拾ったのは、奴隷を得るためだったからだ。
頭に小さな木箱を被せられて二人の自宅に連れ去られたコリーンは、その夜から激しい暴行を受ける日々を送ることとなる。キャメロンは自分が「ザ・カンパニー」という大規模犯罪組織の一員で、逃げればコリーン本人はもちろん家族にも危害を加えると言った。その部屋には若い女性の写真も飾られており、キャメロンはその写真を見せながら、反抗すればお前も同じ運命を辿るとコリーンを脅した。そしてコリーンは奴隷契約書にサインさせられ、名前を奪われて「K」と呼ばれるようになった。
箱の中の女
コリーンはベッド下の狭い木箱に閉じ込められ、性的なものを含む激しい暴力と恐怖に晒され続けた。やがて彼女はキャメロンを「マスター」と呼ぶようになり、従順になっていった。すると彼女は家事や夫妻の子供たちの世話を任されるようになり、ジョギングなど外出も認められるようになったが、誰かに助けを求めようとはしなかった。「ザ・カンパニー」がいつでも自分を監視していると思い込んでいたからだ。
1981年には家族に会いに行くことさえ許可されたが、この時もコリーンは助けを求めることはしていない。家族は家族でコリーンがカルトに関わっていると考えていたようで、下手に刺激して再び娘と連絡が取れなくなることを恐れ、キャメロンと無理やり引き離すようなことはしなかった。
キャメロンはコリーンを自由にしすぎたと考えたのか、彼女を再びベッド下の木箱に閉じ込めるようになった。コリーンは1日のうち23時間は箱の中で過ごしたという。彼女が再び外出を許されるようになるのは1983年のことだ。
女二人の奇妙な関係
コリーンはジャニスとともに、近所のモーテルでメイドとして働くこととなった。この時期、キャメロンはコリーンを二人目の妻に迎えたいと考えるようになっていた。このことが、ジャニスの心境に変化をもたらした。
ひと時とはいえキャメロンから離れた二人は、次第に仲を深めていった。ジャニスはコリーンに対し、自分も長年キャメロンから「売春婦」と罵られ、虐待され、洗脳されていたと告白し、ついに「ザ・カンパニー」など実在しないと打ち明けたのである。そして1984年、ジャニスの説得を受けたコリーンはついに自宅へと帰ることとなった。誘拐されてから7年の歳月が過ぎていた。
コリーンは自宅に帰っても、キャメロンのことを告発することはなかった。ジャニスは夫の更生を願ったが、キャメロンはその後もコリーンに未練たらしい電話をかけ続けたという。コリーンの解放から3カ月後、ジャニスは自ら警察に通報し、全てを打ち明けた。
もう一人の犠牲者
ジャニスは事件について証言することを条件に、自身の罪に関しては免責を勝ち取った。そして警察に、過去に夫が殺した女性についても証言したのである。
女性の名は、マリー・エリザベス・スパンホーク。親しいものたちからはマーリズの愛称で呼ばれた彼女こそ、『未解決ミステリー』で取り上げられた幽霊の正体と考えられている女性である。
マーリズ(失踪当時18歳)は1976年1月、突如として姿を消した。同棲していた彼氏との喧嘩の直後だったといい、通報を受けた警察は当初、この彼氏がマリーズ失踪の容疑者だと考えていた。しかし証拠はなく、その後1984年11月まで、マーリズの行方は手がかりすらない状態だった。
ジャニスによると、キャメロンは街中でマーリズに声をかけ、言葉巧みに車に乗せたという。そしてコリーン同様木箱を被せて誘拐し、自宅の地下室に監禁した。そして激しい拷問の末、キャメロンはマーリズを絞殺。ジャニスによると、その後、遺体はラッセン火山国立公園に埋められたという。キャメロンはマーリズの写真を部屋に飾っていたそうで、誘拐直後のコリーンに見せつけて「逆らえばこの女と同じ末路を辿ることになる」と脅すのにも使っていた。
ジャニスの証言は詳細であったものの、警察はマーリズの遺体を発見することができなかった。証拠不十分で、マーリズの事件に関してはキャメロンを立件することができなかったのである。キャメロンはコリーンに対する性的暴行や誘拐などの罪で、懲役104年の刑を宣告された。
母子の前に現れた「マイリズ」
未解決ミステリーで紹介された幽霊騒動は、それからおよそ15年後のことである。
騒動の舞台となったのは、マーリズが失踪直前まで暮らしていたアパートの一室である。2000年、この部屋にたまたま引っ越したシングルマザーとその娘は、すぐに不思議な体験をするようになる。母親の方は男女二人に地下室に閉じ込められる夢を何度も見るようになった。そして娘の方も、母親には姿の見えない女性「マイリズ」と会話をするようになったという。それ以外にも、二人が出かけている間に物が勝手に移動していたりするような不気味な現象が続いた。
母子は結局たった3ヶ月で問題のアパートを引っ越すこととなった。しかし、その後も母親の方は男女や謎の数字を夢に見ることがあった。偶然にもかつての住人が事件に巻き込まれて行方不明になっていたことを知った彼女は、悩みながらも警察に連絡をとってマーリズ事件の捜査に協力しているという。
ところで未解決ミステリーにはコリーンも出演している。番組内で触れられることはなかったのだが、実は彼女もちょっと気になる証言をしている。
それはコリーンがヒッチハイクでキャメロン一家の車に乗った直後、立ち寄ったガソリンスタンドでのことだ。トイレに行ったコリーンは「窓から走って逃げて、後ろを振り返ったらダメ」という何者かの声を聞いたという。コリーンは恐怖を感じつつもキャメロンの車に戻ったというが、もしこの謎の声に従っていたら……。
キャメロン・フッカーは2021年に仮釈放され、現在は郡の刑務所の病院に収容されている。また、ジャニスは名前を変えて生活しているという。
参考
Kidnapping of Colleen Stan (Wikipedia)
未解決ミステリー
What Happened to Marie Elizabeth Spannhake? True ‘Unsolved Mysteries’ Story (Newsweek)
なおこの事件は『ガールインザボックス』というタイトルで映画化されている。