死刑囚からの手紙で事件が発覚 上申書殺人事件

週刊誌の編集部などには頻繁に刑務所や拘置所から手紙が届き、その中には、発覚していない犯罪の告白がされていることも珍しくないという。とはいえ、その手の告白の多くは記者の気を引きたい愉快犯で、当然だが「本物」はめったにないそうだ。

だが、2005年、新潮社『新潮45』編集部に届いた手紙は違った。手紙の差出人はすでに死刑判決を受け、東京拘置所に収監中だった後藤良次。元暴力団幹部で、2000年に1人を殺害、3人に重軽傷を負わせた凶悪犯だった。

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殺人を告白した死刑囚

後藤はヤクザで、群馬を中心とした暴力団の幹部であり、自らも後良組(後の宇都宮後藤組)の組長であった。1990年、後藤は敵対する暴力団組長を射殺して逮捕されるが、証拠不十分により不起訴処分を受け、1994年にも暴力行為や銃刀法、覚せい剤取締法違反などで群馬県警に逮捕され、懲役4年の実刑判決を受け、1998年に出所した。

2000年7月、後藤は刑務所時代の知り合いだった暴力団関係者と揉め事を起こし、舎弟と共にその相手を殺害した。被害者を生きたまま簀巻きにして、橋の上から那珂川に投げ捨てるという残忍な犯行だった(水戸事件)。

さらに翌8月22日、後藤は舎弟ら4人と共に、やはりトラブルのあった男女4人を宇都宮市のマンションで縛り上げ監禁、そのうちの女性1人に多量の覚醒剤を打って死に至らしめ、残る3人をめった刺しにした挙げ句、灯油をまいて放火したのである(宇都宮事件)。

8月30日、後藤は水戸事件・宇都宮事件の共犯者らと共に逮捕され、2007年に最高裁で死刑判決を受けた。同時に逮捕された舎弟らも、無期懲役などの実刑判決を受けている。

2005年、一審、二審で死刑判決を受け上告中だった後藤は、かつての舎弟の一人が自殺したことを知る。彼は後藤が面倒を見ていた若い衆で、逮捕後は後藤が「先生」と呼んで信頼していた男に面倒を頼んでいたのである。だが、その彼の死に様とその母親の様子から、後藤は彼らが「先生」のターゲットにされていることに気づいたのである。

激怒した後藤は新潮45編集部に手紙を出し、過去に「先生」こと三上静男と共謀して起こした3つの事件を告白した。三上は不動産ブローカーで、身寄りがないとか多額の借金があるといった人々から土地や財産を巻き上げて荒稼ぎしていたのである。その際、汚れ仕事を引き受けていたのが後藤だった。

死刑囚が明かした凶悪犯罪

第一の事件は1999年11月ごろのことだった。金銭トラブルを起こした三上が、その相手である60代男性を殺害してしまったというのである。三上に相談を受けた後藤は、その遺体を燃やして処分した。三上はこの一件で数億の金を手にしたという。なお、この事件の被害者は名前すらわかっていない。

第二の事件は1999年11月、茨城県の身寄りのない資産家男性を生き埋めにして殺害したというものだ。この事件では、被害者の土地が三上名義に変更されて売却されたことがわかっている。三上は遺体を別の場所に埋めなおしたらしく、警察の捜査でも遺体は発見されていない。

第三の事件が起きたのは2000年8月ごろ。被害者は茨城県の内装店経営の60代男性で、高濃度のウォッカを飲ませて自殺に見せかけて殺害した。この事件は被害者の家族や取引先社長も共謀した保険金殺人であったが、当時、警察は自殺として処理している。被害者家族には多額の保険金が振り込まれたが、その多くは三上や後藤の手に渡った。

後藤は逮捕後もこれらの事件について隠し通していたのだが、三上に預けたはずの舎弟の自殺をきっかけに告白の手紙を書いている。この舎弟は零落した資産家の生まれで、落ちぶれたとはいえ舎弟とその母親はそれなりの土地・財産を持っていたらしい。後藤はその手口から、三上がこの舎弟と母親を亡き者にし、その財産を自らのものにしようとしていたことを見抜いたようだ。この一件に後藤は激怒、三上と共に関わった事件について上申書を提出し、新潮45にも告発の手紙を送ったというわけだ。

残念なことに、立件されたのは第三の事件のみであった。また、第一の事件と第三の事件に関わったとされる男性が死亡したことで捜査はさらに困難を極めることとなったのだが、最終的に第三の事件で被害者殺害を依頼した被害者の妻、長女夫妻と後藤を含む実行犯4人、そして三上が逮捕された。

一連の事件の裁判はすでに終わっており、2007年、被害者家族らに懲役13〜15年の判決が確定、2010年には三上の無期懲役が確定した。そして後藤であるが、水戸事件と宇都宮事件で死刑が確定しており(2007年)、この事件でも懲役20年が確定している。

余談だが、この事件をきっかけに死刑囚の「告白」が増えたという話がある。捜査が長引けば、その分死刑執行までの時間を稼げるからだ。舎弟の死が許せずに事件を告発したとする後藤も、実際のところは死刑を延ばすために告白したというのがもっぱらの見方である。

なお、この事件をまとめた新潮45編集部編『凶悪―ある死刑囚の告発』はベストセラーになり、2013年には山田孝之主演で映画化もされた。山田孝之は雑誌記者役で、後藤を演じたのはピエール瀧、三上はリリー・フランキーという豪華な配役である。

後藤役の逮捕問題と元々のグロさもあって多分テレビで放映されることはないが、Amazon Primeで会員無料なので興味があれば見てもいいと思う。個人的には原作本のほうがはるかに面白かったが。

参考

凶悪―ある死刑囚の告発 新潮45編集部編 新潮文庫

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