Netflixのサイケなスピ系アニメ、ミッドナイト・ゴスペルがすごかった

「ダミアン・エコールズが声優をやってるアニメがある」という話を聞いたのは今年のGWだったか。ダミアン・エコールズは1993年に米ウェスト・メンフィスで起きた殺人事件で逮捕され、死刑判決を受けた「ウェスト・メンフィス3」のリーダー格で、長らく無罪を訴え続け、紆余曲折の果てに死刑執行の直前、司法取引で釈放されるという特異な経験を持つ人物だ。

そんなダミアン・エコールズが出演したのが、2020年4月に公開されたNetflixオリジナルの『ミッドナイト・ゴスペル』というカートゥーンアニメだ。ネット上の評判を見ると「訳がわからない」「サイケデリック宗教アニメ」「ドラッグが欲しくなる」とか不穏な言葉が並びつつもかなり評判がいい。暇に任せて見てみることにした。

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ミッドナイト・ゴスペル

主人公はシミュレーターを使って多次元宇宙を旅し、そこに住む人にインタビューする宇宙配信者のクランシー。たった一人の登録者のために「ミッドナイト・ゴスペル」の宇宙配信を続けている。全身ピンクでつぶらな瞳を持ち見た目は可愛らしい少年だが、実際には40代で姉や元カノに金を借りてトンズラするようなろくでなし。作中では新しい登録者が増え、彼のためにアイスを探すという健気な一面も見せる。

主人公クランシー

クランシーとゲストは毎回死や瞑想、薬物、魔術といったトピックについて語り合いながら、サイケデリックな悪夢のような世界を旅する。ある時はゾンビと戦い、時には潰されてひき肉になり、死と出会い、最後には母親を出産する。クランシーとゲストは毎回ラストで死ぬが、犬と猫は死なない。会話がやたらと抽象的で難解な上、背後で展開されるアニメの情報量がとにかく凄まじいので、1話30分もないのにぐったりしてしまう内容の濃さだ。

ダミアン・エコールズはEp.3のゲストで、頭に魚が入った金魚鉢の男として登場する。クランシーは新規チャンネル登録者に贈るアイスクリームを探すため、金魚鉢男とその仲間である賢いネコたちが操縦する船で水没した星を冒険する。

左が金魚鉢男。右はクランシーのアバター。

会話の中で金魚鉢男は、悟るために魔術に興味を持ったと話す。当初は仏教や東洋哲学に傾倒していたが、西洋人である自分には合わないと判断、現在はイギリスの魔術師アレイスター・クロウリーの流れを汲む魔術を追求しているという。彼のいう「魔術」とは、たった一度の人生で仏教の輪廻転生と同じような効果を得られるというものだ。

中の人であるダミアンはティーンエイジャーの頃から魔術に興味があり、そのために周囲から変わり者と見られていた。それが原因となって地元で起きた不気味な殺人事件の容疑者として疑われたのだが、疑われたことも刑務所に入ったことも、今思えばその修行の一環だったと金魚鉢男はあっけらかんと語る。

旅の果て、クランシーは巨人の体内でアイスを吐き出す天馬を見つけるが、目を覚ました巨人たちの痴話喧嘩に巻き込まれ、その余波で星は死を迎える。

やたら密度の濃いゲストたち

ダミアンの他にも、このアニメに登場するゲストたちはどれもこれも“濃い”人ばかりだ。以下、軽く紹介。

Ep.1 ドリュー・ピンスキー。薬物に詳しい医師で、ラジオやポッドキャストのパーソナリティーとして人気を博している。作中ではオピオイドやベンゾジアゼピンの危険性を説き、大麻を解禁すべきと話す。

Ep.2 アン・ラモットとラグー・マーカス。アン・ラモットは過去に賞を取ったこともある作家であるが、邦訳はほとんどないようで、文章の書き方の指南書である『ひとつずつ、ひとつずつ』(パンローリング株式会社)と育児エッセイ『赤ちゃん使用説明書』(白水社)くらいしかない。ラグー・マーカスはアメリカの有名ヨガマスターでスピリチュアリスト、ラム・ダスの教えを伝える財団のディレクター。

Ep.3 ダミアン・エコールズ。

Ep.4 トゥルーディ・グッドマン。瞑想と心理療法の専門家で、マインドフルネスを目的とした瞑想サポート団体Insight LAの設立者

Ep.5 ジェイソン・ルーヴ。スピリチュアル系の作家でジャーナリスト。

Ep.6 デヴィッド・ニックターン。作曲家で仏教やヨガのインストラクター。

Ep.7 ケイトリン・ドーティ。葬儀屋で作家、ユーチューバー。現代の西洋における死や葬式のあり方に疑念を呈しており、新たな形が必要だと訴えている。

Ep.8 デニーン・フェンディグ。クランシー役のダンカン・トラッセルの実母。ガンを患い、2013年に死去。

構成もストーリーも、すべて最終話の母との対話へつなげるために作られている。視聴中、やたら「死」「救い」といったキーワードが出てくるのを不思議に思っていたが、「大切な人の死や、いずれ来る自分の死を受け入れるにはどうしたらいいか?」という一大テーマが背景にあると考えると筋が通る。

元はポッドキャスト

ミッドナイト・ゴスペルは、クランシー役を務めるダンカン・トラッセルのポッドキャストが元ネタになっている。登場したゲストたちも元々はこのポッドキャストの出演者だった。トラッセルの公式サイトから聞くことができるが、その声はクランシーそのもの(当たり前)。

ゲストとのトークを元にイメージを膨らませたのがアニメパートであるが、そもそもドラッグ、宗教、スピリチュアルもろもろの闇鍋が常識的なものになるわけがない。サイケデリック(LSDで見える幻覚)と言われるのも当然の代物になっており、多分ドラッグでもやりながら見るのが正しいのだろう。ハマる人はとことんハマる、そんな感じのアニメだった。

『ミッドナイト・ゴスペル』予告編 – Netflix

参考
Netflix紹介ページ 画像はここから引用。
Wikipedia 英語

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