ピエロがどうして怖いのか? 殺人ピエロの系譜

最近、欧米では殺人ピエロの目撃が相次いでおり、ネットはもちろんリアルでも大騒ぎになっているそうだ。不気味なピエロの相次ぐ目撃に、学校が休校したり政府が声明を発表したりしている。マクドナルドがドナルドの使用を自粛しているという(AFPの記事)のだから恐れ入る。

ドナルド・マクドナルド(wikipediaより)

ドナルド・マクドナルド(wikipediaより転載)

日本の感覚だと、ピエロは邪悪とか恐怖とかそういう感覚のものではない。だがピエロのような化粧をしたバッドマンのヴィラン・ジョーカーは、滑稽ながらも不気味だ。そういえばドナルドが苦手な友人もいた。白塗りで表情の読めないせいだろうか、ちょっと化け物じみて見えるのはわかる気がする。

欧米の道化恐怖症

さて、日本ではあまりピンとこないが、欧米ではCoulrophobia(道化恐怖症)という単語があるくらいにピエロは恐怖の対象である。

日本ではあまり見かけないピエロだが、欧米ではショーやイベントでずっと身近な、本来は楽しい存在だ(なおピエロは英語でclownという。pierrotはフランス語。ただ意味する内容はちょっと違うらしい)。だが、信じられないことにアメリカの精神科医は若い患者の十人に一人はこの恐怖症だと証言している(AFPの記事)。

おどろおどろしいメイクで着飾ったピエロはハロウィンの仮装の定番の一つでもあり、ハロウィン前の時期に殺人ピエロ騒動が盛り上がっているのはある意味必然ともいえる。面白がって恐怖動画を作ったり、実際に刃物などを持ってうろつくバカがいたりと、話題には事欠かない(Wikipediaの記事で大量の目撃証言や事件がまとめられている)。

最恐の殺人ピエロ・ペニーワイズ

さて、道化恐怖症のルーツについては諸説あるが、一般化したきっかけは1980年代に発表されたスティーブン・キングによるホラー小説の傑作「IT」だといわれている。

この小説に出てくる邪悪なピエロ、ペニーワイズは子供達を次々に殺す連続殺人犯で、多くの読者を恐怖に陥れた。私も怖かった。当然のように映画化されており、その強烈なビジュアルで多くの人をピエロ恐怖症に陥らせた。2017年にも再び映画化されるらしい(Gizmodeの記事)。これ以降、殺人ピエロはホラー映画の定番の一つとなっている。

ペニーワイズにはモデルがいるといわれている。1970年代の連続殺人鬼ジョン・ウェイン・ゲーシーだ。彼は表向きは地元の名士としてピエロの扮装でチャリティー活動などをしつつ、その裏では青少年を暴行しては殺害し、自宅地下に埋めていた。

ゲーシーはピエロの格好をした自画像を残しており、その不気味な絵はゲーシーの犯罪を象徴するものにもなっている。余談だが、この絵は世界中のマニア垂涎の的で、高値で取引されているのだとか。

なお、スティーブン・キングは今回の騒動について、「ピエロは怖くないよ」というような内容のTweetをしている。当然、世界中の読者から「あんたのせいだろ」「お前が言うな」と総ツッコミを浴びている。

邪悪なピエロの起源とは?

ところで、邪悪なピエロというモチーフのルーツは、ペニーワイズからさらに昔にさかのぼるようだ。

このモチーフを扱った古い作品の一つに、エドガー・アラン・ポーが1849年に発表した「ちんば蛙(原題:Hop-Frog)」という作品がある。王の道化が理不尽な境遇に耐えかねて、ついに復讐に及ぶという話らしい。また、レオンカヴァッロによるオペラ「道化師」(旅の一座で道化役をしている青年が村娘と恋に落ちたが、仲を引き裂かれた末に舞台中に錯乱して恋人を殺してしまう)もイメージの形成に関わったと指摘されているようだ。

17_rackham_poe_hopfrog

Hop-Frogの挿絵。手前右が道化師。wikipediaより転載。

今回の騒動を見ていると、邪悪なピエロはすでに宇宙人やスレンダーマンのような怪物扱いをされている。中身は普通の人間で、エンターテイメント業界では大抵は善良なキャラクターの一つにも関わらずだ。
いくつか見ただけだが、殺人ピエロ動画はいわゆる恐怖動画と同じような作りになっている。キャーキャーと騒いでいるのが、信じやすくて大騒ぎしたい年頃の子供たちだけというのでも分かる。宇宙人やUFOと違い、ピエロ動画はコスプレだけで作れるので、技能がなくてもお手軽に動画を作れるというのも騒動の拡大に一役買っている気がする。

まっとうにピエロをやっている人々(プロの道化師は大勢いる)が、今回の騒動の一番の被害者だろう。善意や好意から極めて真面目にやっているのに、勝手に恐怖の対象にされ、悪ふざけする子供たちにイメージを好き勝手に壊されるのはさぞ腹立たしいだろうと思う。

余談だが、この騒動なのに「IT」の邦訳版は2016年10月現在品切れだ。It (English Edition)はランキング上位なのに! 文藝春秋は早く増刷すべき。

参考
Coulrophobia (wikipedia) 英語。
Evil clown (wikipedia) 英語。

スポンサーリンク
レクタ大

フォローする

スポンサーリンク
レクタ大