嘘か真か、34000年前に作られた? ボスニアの世界最古のピラミッド群

ボスニア・ヘルツェコビナの首都サラエヴォの北西部にヴィソコという町がある。オスマン帝国時代に作られて繁栄した歴史ある町だが、ボスニア・ヘルツェコビナ紛争で大きく被害を受け、未だにその傷跡が色濃く残っている町でもある。

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超古代のピラミッド?

太陽のピラミッド(wikipediaより)

太陽のピラミッド(wikipediaより)

2006年、この町の山々についての驚くべき発表が行われた。ヴィソチツァ山などヴィソコ周辺にあるいくつかの山々は、古代に作られたピラミッドだというのだ。しかも作られたのは12000年以上前(最後の氷河期が終わった頃)、エジプトのピラミッドよりずっと古いという。

ピラミッドは複数存在し、オスマナジック氏によって名前を付けられている。ヴィソチツァ山は「太陽のピラミッド(Pyramid of the Sun)」、他にも「月のピラミッド(Pyramid of the Moon)」「竜のピラミッド(Pyramid of the Bosnian Dragon)」「大地のピラミッド(Pyramid of the Earth)」「愛のピラミッド(Pyramid of Love)」などとされている。
測量によれば太陽のピラミッドは正確に北を向いているという。また、月のピラミッドは階段ピラミッドだそうだ。現在は草木に覆われてしまっているが、元々はコンクリートブロックで舗装されていたという。

また、ピラミッド内部には全長約4kmに及ぶトンネルがあり、そこで見つかった化石の年代測定は34000年前という結果だったそうだ。

ピラミッド内のトンネル(wikipediaより)

ピラミッド内のトンネル(wikipediaより)

この発表はNational Geographicなどでも取り上げられ、大きな反響を呼んだ。

この説を提唱したのはセミール・オスマナジックらのグループだ。オスマナジックはボスニア出身の実業家で、紛争を逃れてアメリカに移住、ビジネスで成功して財を成し、現在は私財を投じてこのピラミッド群の発掘調査を行っているようだ。

彼はこのピラミッドは南米やエジプトのピラミッドを作ったのと同じ人々が作ったと考えており、ヴィソチツァ山は「全てのピラミッドの母(The mother of all Pyramids)」であるとも語っている。また、このピラミッドの発掘によって「悪いエネルギーが払拭され、銀河の中心から来る宇宙エネルギーを地球が受け取れるようになる」とも主張している。

専門家らによる反論

さて、このピラミッドについて2006年に発掘調査が行われた。そして、ヨーロッパの著名な考古学者7人が考古学協会(European Association of Archaeologists: EAA)を通して、「悪質な捏造(cruel hoax)」だという宣言を出している。

この宣言によると、ピラミッドのような地形は自然現象によるものだという。また、オスマナジックらがピラミッドが作られたと主張する時代にも人間は住んでいたようだが、大規模な建築を行うような技術は持っていなかった。

さらに、宣言ではオスマナジックらの発掘が考古学研究の妨げになっているとも指摘している。ヴィソチツァ山には古代ローマ時代の観測所や中世の要塞の跡が存在するが、彼らの発掘によって本物の貴重な文化財が破壊されてしまうというのだ。そしてオスマナジックらの発掘は貴重な資源の無駄とまで言い切っている。

発見者・オスマナジック氏とは?

オスマナジック氏(wikipediaより)

オスマナジック氏(wikipediaより)

ネットにあるインタビューや記事を見る限り、オスマナジックはデニケンとかハンコックの流れを汲んだ、超古代文明説や宇宙人創造説の系譜の人と思われる。ピラミッドに愛とか竜なんて名前を付けてしまうセンスや宇宙人が作ったものとか真面目に語っているあたり、少なくとも正統な考古学者ではないのは明らかだ。Ph.Dは取っているようだが、Sociology of History。他の学位も経済学などで自然科学ではない。

彼はウェブサイトで世界中からボランティアを募り、現在も発掘調査を行っている。日本ではこれまでほとんど取り上げられていないが、ヨーロッパではかなり有名になっており、町は観光地化しているそうだ。

当然この話はボスニア国内でも大きく報じられているようで、今では祖先の遺跡として広く受け入れられつつあり、子供たちは勉強のためにヴィソチツァ山に登るという。

調査の行方は気になるが

ヴィソチツァ山がピラミッドなのかはともかく、山の中の通路や石畳などは確かに考古学的な価値があるのだろうと思う(文字の書かれた石版には捏造疑惑があるそうだが…)。だが、発掘者らが超古代文明とか宇宙人だとかの色付けをしてしまっているせいで、まともな学者から相手にされず、ちゃんとした調査や保存がされないのではという懸念を抱いてしまう。

宇宙のエネルギーがどうたらとか太古の宇宙人がどうしたとか、そんなこと抜きでも考古学は十分に面白い。山の頂上から光のビームが…とか真面目な顔で言われても、正直そっち系の人以外は唖然とするだけだろう。だが、宇宙人や幻の超古代文明の実在の方が重要な人たちは沢山いて、エジプトでも南米でも「まともな」考古学者たちを相当困らせているんだろうことは想像に難くない。ヨーロッパの考古学者たちの宣言を見ていると、彼らのうんざり感をなんとなく感じてしまう。

とはいえ前述の通り、ボスニア国内ではこのピラミッドが“民族の誇り”というような扱いを受けているようで、オスマナジックはすっかり有名人らしい。現地にも懐疑的な科学者らはいるのだが、世間からの反感は強いようで、時には脅迫めいた電話やメールが届くという。そのため、見て見ぬ振りをする歴史や考古学の専門家が多いそうだ。江戸しぐさとかあの辺を思い出す話だが、このようなことは万国共通なのだと考えさせられる。

2019年現在もオスマナジックらの発掘調査は続いている。ボスニアのピラミッドの謎が解ける日は果たして来るのだろうか。

参考
Bosnian pyramid claims (wikipedia)
Dr.sci Sam Semir Osmanagich, PhD. オスマナジックの公式サイト。英語。
Bosnian Pyramid of the Sun Foundation ピラミッド発掘を行っている財団の公式サイト。英語。

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