「ラーメン」という祈りの言葉を知っているだろうか。これはもちろん麺類のラーメンにちなんだ祈りである。
海賊の衣装を身につけた信者達が「ラーメン」と祈りを捧げる神は『空飛ぶスパゲティ・モンスター(Flying Spaghetti Monster, FSM)』という。のびたスパゲティの触手とミートボールの目玉を持ち、大酒を飲んだ後にこの宇宙を作った偉大なる神だ。
教義によれば、天国には男女のストリッパー工場とビールの湧き出る火山がある一方、地獄ではストリッパーが性病持ちでビールの気が抜けているという。
信者は教祖や教団にお布施をする代わりに「貧困をなくす」「病気を治す」「平和に生きて、燃えるように愛して、電話の通話料を下げる」ことにお金を使うよう推奨されている。
このへんてこな宗教は、いわゆるインテリジェント・デザイン説(ID説)へのカウンターとして作られた。要するにジョークだ。
教団創始者であり預言者でもあるボビー・ヘンダーソンは、アメリカの学校教育でFSMを教えるべきだと主張している。
アメリカで根強い反進化論
ID説は「知性ある(インテリジェントな)何か」によって宇宙や生命が作られたという説だ。日本ではあまり馴染みがないが、アメリカでは結構有名だ。
科学の発展によってキリスト教などが主張する「神による世界創造」は否定され、学校教育でも政教分離や科学重視によって進化論が教えられるようになった。
しかし、これが気にくわない一部宗教関係者などが考え出したのがID説である。特定の「神」ではなく、よく分からないけど何かインテリジェントな存在がこの世界を形作ったというのが彼らの主張だ。
ID説を唱える人々は最新の科学的な知見も取り込む一方で、「インテリジェントな何か」という言葉で「神」の存在を濁した。そして科学的な理論の一つとして学校で進化論と一緒にID説も教えろという運動が起こした。
この運動に異議を唱えるため、ヘンダーソンが唱えたのがFSMである。インテリジェントな何か=FSMであるとし、平等のためにFSMも学校で取り上げろと主張した。
ID説の支持者が行った、神を知性ある何かとするごまかしを鮮やかに皮肉ってみせたのだ。
最近、FSMは宗教として認められつつある。
例えばオランダでは正式な宗教団体と認められたり、アメリカでは運転免許証の写真にザルを被った写真(信者はパスタ湯切り用のザルを被ることがある)が許可されたりしている。
面白いなあと思う一方で、一神教が社会の根幹にある社会というのは面倒くさいと思うのだ。
参考
反・進化論講座―空飛ぶスパゲッティ・モンスターの福音書 ボビー・ヘンダーソン 築地書館
教祖ボビー・ヘンダーソンによるFSM解説書聖典。