犯人逮捕が一転、迷宮入りとなった怪事件 城丸くん事件

1984年1月、一人の少年が姿を消した。当初は身代金目的の誘拐事件かと思われたが、犯人からの連絡は一切なく、少年が家に戻ることもなかった。だが三年後、少年の遺骨がとある火災現場から発見された。家主の妻が少年の誘拐および殺害に関与しているとされ、事件は解決するかに思われた。

裁判は日本の裁判史上でも異例の展開となった。誘拐殺人犯と疑われた女は黙秘を貫いて無罪となり、最後には警察を相手取った損害賠償の請求まで勝ち取ったのだ。

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消えた少年

1984年1月10日午前9時30分頃、北海道札幌市豊平区の資産家・城丸(じょうまる)隆氏の家に、一本の電話がかかってきた。電話を取ったのは次男で当時9歳の秀徳くんで、電話を切るとすぐに貸したものを返してもらうためにワタナベさんの家に行くと言い残し、慌てたように家を出て行った。
家族はワタナベという名に心当たりがなく、秀徳くんの様子も少しおかしかった。心配した母親の指示で兄が後を追いかけたが、しばらくして見失ってしまった。

兄が少年を見失った地点からほど近くには「ワタナベ」宅があった。帰らぬ息子を心配した母親は思い切ってその家を訪ねたが、留守番の女子高校生は何も知らず、電話もかけていないという。
家族の通報により警察が動き出したが、秀徳くんは見つからない。最後に目撃されたのは兄が弟を見失った近くのアパートだった。アパートの二階に住むホステスの女性Kが秀徳くんに会ったことを証言した。Kはアパートの前で秀徳くんらしき少年に声をかけられ、ワタナベさんの家を知らないか?と尋ねられたと話した。少年は隣家のことを教えると立ち去ったという。

その後の秀徳くんの足取りは一切不明である。営利目的の誘拐ならばあるはずの身代金要求もなく、公開捜査に切り替えた後も有力な手がかりはなかった。

遺骨の発見

1987年12月30日深夜、札幌の北部に位置する新十津川町の農家で火災が起きた。出火元は家主の男性の部屋で、男性は死亡したが、妻子は隣家に助けを求めて無事だった。この火事から半年経った1988年6月、焼け残った納屋を片付けていた家主の兄弟が、棚の上に置かれていたビニール袋から人骨を発見した。
骨は焼かれて細かく砕かれていたが、歯形や血液型などから4年前に行方不明となった秀徳くんのものだと判明した。

誰がこの人骨を隠したのか? 焼死した男性の妻が真っ先に疑われた。この女性こそ、秀徳くんを最後に目撃したKであった。

疑惑の女性

Kは秀徳くんの失踪当時、多額の借金を抱えていた。警察は身代金目的で秀徳くんを拉致したものの、持て余して殺してしまったと疑った。さらに、秀徳くんが行方不明になった直後、Kの家から大きなダンボール箱が持ち出されていることが分かった。また、周囲に異様な匂いを撒き散らしながらKが何かを燃やしている姿も目撃されていた。
だが、Kは取り調べに対して無罪を主張し、「何も知りません」と黙秘を貫いた。
警察は見つかった人骨を秀徳くんのものと完全に断定できず、また、Kが犯人である証拠もなかった。結局、基礎は見送られ、Kは釈放された。

ところで、Kにはもう一つの疑いが持たれていた。夫に対する保険金殺人疑惑である。
火災で死んだ男性には高額な生命保険がかけられていた。受取人であるKは深夜であるにも関わらず、子供ともども外出着を身につけた上、預金通帳や保険関係の書類一式を入れたバッグを持って家から逃げ出していた。夫婦仲は悪く、夫は以前より殺されるかもしれないと兄弟に話していた。
当然、Kによる保険金目当ての放火殺人が疑われた。親類がKを問い詰めたが、彼女は当然否定した。警察や消防も調査を行ったが、妻による放火殺人が立証されることはなかった。しかし、保険会社は保険金の支払いを拒否し、Kも請求を取り下げている。

それから10年後の1998年11月、警察は最新のDNA鑑定によって、人骨が秀徳くんのものと断定し、Kを殺人罪で逮捕した。時効まであと2ヶ月というギリギリのタイミングだった。
だが、Kは犯行を否認し、完全黙秘を貫いた。公判でもその態度は変わらず、容疑を否認した上で「お答えすることは何もありません」と繰り返した。

判決、そして

2001年5月30日、一審で無罪判決が下った。傷害致死・死体遺棄・死体損壊罪はすでに公訴時効が成立しており、殺人罪についても証拠が乏しかったためだ。Kが犯人である可能性は高いが、合理的な疑いが残るというのが無罪の理由である。
検察は控訴したが、2002年3月19日に一審と同様の理由で控訴棄却された。検察側は上告を断念したため、Kの無罪が確定した。なお、放火殺人についても時効が成立している。
その後、女性は刑事補償1160万円(うち弁護士費用250万円)の請求を札幌地裁に起こし、支払いが決定した。

Kは取り調べの最中に、自分が犯人であることや共犯者がいたことを匂わせていたという。だが、証拠の乏しさと完全黙秘によってKは無罪を勝ち取った。
こうして事件は迷宮入りとなった。

参考

殺人者はそこにいる―逃げ切れない狂気、非情の13事件 「新潮45」編集部 新潮文庫

城丸君事件(wikipedia)

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