犯罪者は生まれつき犯罪者となるべく宿命づけられており、顔を見れば見分けることができる。19世紀のイタリアでこんな主張をした精神科医がいた。彼の名はチェザーレ・ロンブローゾ。後に犯罪人類学の創始者、犯罪学の父と呼ばれるようになる。
生来的犯罪者説
ロンブローゾは1836年にイタリア・ヴェローナで生まれ、様々な語学や薬学、医学などを学び、主に精神医学のフィールドで活躍した。
彼がとりわけ興味を持ったのは『天才』と『犯罪者』だった。刑務所や精神病院で多数の受刑者に面会し、骨相学・人類学・遺伝学など当時としては最新の学問的知識を駆使し、身体的な特徴と犯罪傾向について分析した。
1876年に発表された『犯罪人論(L’uomo delinquente)』は彼の代表的な著書である。本書で述べられたのは遺伝的要素が犯罪に及ぼす影響だ。ロンブローゾは「犯罪者には一定の身体的・精神的特徴が認められる」という生来的犯罪者説を主張した。
ロンブローゾによれば、犯罪者には一定の特徴が見られるという。まず身体的な特徴として「大きな眼窩」「狭い額」「高い頬骨」「小さな脳」「大きな顎」「大きな耳」など18項目が挙げられた。また、精神的特徴として「痛覚の鈍磨」「低い知能」「道徳感覚の欠如」などが挙げられていた。
背景にはダーウィンの進化論の影響があった。ロンブローゾは犯罪者の特徴を類人猿に近いとし、ある種の先祖返りであると論じ、文明社会に適応できない彼らは犯罪者になるべく運命付けられていると考えたのである。
生来的犯罪者説は発表当時から批判も多く、また、反証となるデータも多数出てきたことから、やがて下火になっていった。しかし、そのセンセーショナルな内容は各地で論争を呼び、文学などの文化活動にも影響した。
学説そのものは否定されたものの、ロンブローゾの行った犯罪の客観的なデータ収集と比較という当時では画期的な手法そのものは、現在でも高く評価されている。これこそ、彼が犯罪学の父と呼ばれる所以である。
ロンブローゾ・コレクション
生前からロンブローゾは自ら集めた犯罪者の骨格標本、デスマスク等々の標本を公開していた。現在、彼のコレクションはトリノ大学のチェザーレ・ロンブローゾ犯罪人類学博物館に収蔵・公開されている。
博物館は2009年のロンブローゾ生誕100年に合わせて改装されており、犯罪者たちの頭蓋骨やデスマスクはもちろん、犯罪だけでなく天才にまつわる品々も展示されている。ロンブローゾの業績や学説についても解説されており、実際に使った計測機器や肖像画や蔵書なども見ることができる。
ちなみにロンブローゾは死後、自分の頭部をホルマリン漬けにして保存させたそうだ。頭部は現在もトリノ大学に保管されているというが、ここで展示されているかは不明。
開館日は月曜から土曜日の10:00〜18:00。
入館料は5ユーロ。系列の博物館(同じ建物内に人体解剖学博物館がある)チケットがあり、そちらは10ユーロ。
参考
Museo di antropologia criminale Cesare Lombroso 公式サイト。イタリア語。英語版あり。画像はここから引用。