全身刺青から偉人の脳まで 東京大学医学部標本室

昔、何かの本で東大医学部のコレクションについて読んだことがある。
東大医学部は歴史ある日本最高峰の医学研究機関なので、素晴らしい病理標本のコレクションや研究用標本の数々の他、夏目漱石の脳なども保存されているという。
とりわけ印象に残っているのが刺青の標本だ。本物の人体の皮を剥いで作ったというその標本は、腕から背中、腿にかけて、大胆かつ色鮮やかに鬼が描かれていて、一際目を引いた(刺青の標本の例はこの動画で見られる)。いつか実物を見てみたいと思ったものだ。

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全身刺青の人体標本

かつて、日本には全身に色鮮やかな刺青をいれる流行があった。明治時代には禁止されたが、その芸術性の高さは海外でも認められ、やがて黙認されるに至ったそうだ。

1870年に撮影された写真

1870年に撮影された写真(wikipediaより)

そんな刺青の美しさに魅せられ、膨大な記録を取るだけでなく、献体された遺体から標本を採る技術を確立、多くの標本を保存したのが福士政一・勝成親子である。

父親の福士政一氏は1878年生まれで、東京大学医学部病理学教室で学んだ後にドイツ留学、帰国後は東京医科大学の教授となった人物だ。30年にわたり研究を続け、撮影した写真は3000枚にも及んだ(ただし東京大空襲で焼けてしまった)。
息子の福士勝成氏も父親の跡を継ぎ、病理学を学んで刺青研究に従事した。

福士親子が収集したコレクションの多くを収蔵しているのが東京大学医学部標本室だ。
他にも慈恵医大病院などに存在するらしいが、いずれも一般公開はされておらず、医学関係者のみが特別な許可の元で見学できるようだ。

医学部の珍品コレクション

さて、東大の医学部には様々な病理標本、教育用の骨格や内臓の標本など、貴重な資料が数多く眠っている。エジプトのミイラなども保管されているという。東大で行われた重要な研究の資料も収蔵しており、コールタール癌の研究とか原爆による被曝の調査資料なども残されている。また、夏目漱石以外にも作家の斎藤茂吉、画家の横山大観、政治家の三木武夫の脳も保存されているのだとか。

コレクションの一部は東京大学総合研究博物館や医学部病院に付属する健康と医学の博物館に移管されており、展示されているものもあるようだ。だが、刺青標本をはじめとする珍品の類は、一般人でも容易に見ることのできる場所にはない。

医学系の大学・大学院の学生ならば授業の一環として見学することもあるようだ。また、医学系の研究者や医師で、まっとうな理由があれば(収蔵資料に関わる研究をしているとか)見学の許可を得られるらしい。

いずれどこかで公開されることを祈るしかない。

参考
東京大学総合研究博物館
健康と医学の博物館
東大病院だよりNo.56 東大病院の広報誌。P.6から標本室の紹介あり。PDF注意。

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