北欧の黒いミイラ 湿地遺体

泥炭地に沈んだ死体は時に屍蠟化し、死に顔もそのままに真っ黒なミイラと化すことがある。このような遺体を湿地遺体といい、運が良ければ数千年も残ることがある。

泥炭は燃料として採取されており、その作業中に見つかることも多い。デンマーク、ドイツ、イギリス、オランダ、アイルランドなどで数百体の湿地遺体が見つかっている。とはいえ、見つかると面倒ということで、闇に葬られた湿地遺体は数知れず……といわれている。また、近年は泥炭採掘の機械化が進み、バラバラになった状態で見つかるケースも多いようだ。

状態がよい湿地遺体は最近起きたばかりの殺人事件の被害者だと勘違いされる例も多いという。デンマークで1950年に見つかった『Tollund Man』(シルケボー博物館に展示)もその一つで、紀元前400年頃に死んだのにも関わらず、指紋の採取が可能だったそうだ。

Tollund man

今まで見つかっている湿地遺体で最も古いのは1941年にデンマークで見つかった『Koelbjerg Woman』と呼ばれる女性の頭蓋骨と骨だ(Archaeologyのサイトに写真がある)。彼女はなんと紀元前8000年頃に生きていた。中石器時代である。

アイルランドで2011年に見つかった『Cashel man』は紀元前2000年頃の年若い男性だ。現在はアイルランド国立博物館に展示されている。

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高貴なる生け贄?

湿地遺体の大部分は鉄器時代(およぞ〜西暦500年頃?)のものだという。その頃、北欧には今よりも広い範囲に泥炭地があったそうで、見つかった遺体の多くは生け贄だったでのではないかと考えられている。

例えば、2000年代に入ってからアイルランドで発見された『Clonycavan Man』と『Old Croghan Man』(アイルランド国立博物館に所蔵)は紀元前3〜4世紀の男性だ。彼らの体には生前に加えられた激しい暴行の痕が残っているが、高貴な人物のみが身につける装飾品を身につけており、体格も良かった。

Old croghan man

かつて、古代アイルランドには「高貴な生け贄」の習慣が存在したという。王は豊穣の女神と婚姻関係にあったが、飢饉が起こればその責任を負わされ、一転して生け贄として捧げられた。飢饉が起こるのは女神に見捨てられた証と見なされたからだ。

『Old Croghan Man』の胸には乳首を切り取った痕跡があり、このことは彼が失脚した王だった可能性を示しているそうだ。古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったからだ。彼の遺体は首を落とされ、胴体も上下に切断されて、王国の境界付近にばらまかれた。

湿地遺体はヨーロッパ各地の博物館などに展示されている。大英博物館にも『Lindow Man』という1980年代に発見された紀元前3〜2世紀の男性のものが展示されている。前述した湿地遺体のいくつかはアイルランド国立博物館に展示されている。いつか見てみたいと思っていたら……

黒いミイラ、東京に来る

2019年12月から東京科学博物館で行われた特別展「ミイラ」で、湿地遺体がいくつか展示された。展示されたのはWeerdinge Men(ウェーリンゲメン)の実物とYde Girl(イデガール)のレプリカ。この他にも手などが展示されている。

Weerdinge Menの方はイベントのメインビジュアルに採用されている!

Weerdinge Menは1904年にオランダで発見された2体を差す。当初は男女とみられていたが、その後の調査で二人とも男性であることが確認された。BC40〜AD50年ごろに埋葬されたとみられ、片方の男性は胸の傷から腸を引きずり出されている。DNA鑑定は不可能なため、二人の関係も、なぜ二人一緒に埋められたのかも謎。

Weerdinge Men(Wikipediaより)

このミイラ展にはエジプトやインカのミイラはもちろん、即身仏も展示されるなど、ミイラ好きにとっては必見と言える内容だ。開催は2020年2月24日まで。

参考
Bog body (wikipedia) Wikipedia英語版。画像はここから転載。
湿地に眠る不思議なミイラ ナショナルジオグラフィックの特集ページ
Bog Bodies Research Project アイルランド国立博物館の『Clonycavan Man』と『Old Croghan Man』に関するページ。英語。
特別展「ミイラ」 公式サイト

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