社会的に負けたマウスは抑うつ状態になるか 社会的敗北ストレスモデル

人間の疾病研究でマウスなどの小動物が使われているが、その応用範囲は精神、心の病の分野にも及んでいる。社会的なストレス、例えば、学校や会社でのいじめや理不尽な扱いで心身を病んでしまう人は多い。治療法や医薬品の開発にはそのメカニズムの解明が必須であるが、この分野でもマウスが大活躍している。その一つが社会的敗北ストレスモデルである。

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マウスたちの社会的敗北

抑うつ状態をマウスで再現するため、社会的敗北ストレスモデルという実験手法が存在する。この手法を用いると、ひきこもりやうつ状態のマウスを作り出すことができるのだ。
この手法では二匹の体格や性格の違うマウスを使う。一匹は大きくて攻撃的、もう一匹は小さくておとなしいマウスである。

よく使われるWisterラット(Wikipediaより)

まず、この二匹を同じケージに入れる。すると当然、大きい方が小さい方を攻撃し、小さい方は萎縮する。次に、二匹を透明な板で仕切る。物理的な障壁により大きい方は攻撃できないが、透明なので威嚇はできる。小さい方には肉体的なダメージはないが、威嚇による精神的なストレスは続く。これを繰り返すと、小さい方はやがて抑うつ状態に陥るというわけだ。

こうして生まれた社会的敗北マウスは実に様々な症状を示す。食欲不振による体重の減少、水の多飲による体重増加、社会的忌避行動(いわゆる引きこもり)、快感消失(甘いものを好まなくなるなど)などだ。いずれも強いストレスを受けた人間にもよく見られる症状だ。

なお、興味深いことに、同じ系統のマウスでもストレス反応を示さない個体が一定割合で存在するという。遺伝的には非常に似通ったマウスの中に、ストレス耐性のある個体がいるというのはやや不思議な感じもする。

敗北マウスたちのメタボローム解析や遺伝子発現解析などにより、社会的ストレスによる抑うつ状態のメカニズムが徐々に分かりつつある。ストレス耐性マウスとの比較でも、抑うつ状態改善のヒントが得られているという。

最近はメンタルに効くといった謳い文句の飲料、食料品、サプリなどを見かけるようになったが、その初期試験にはこの敗北モデルが使われていることもある(その後、人間での試験が行われる)。今後ますます使い道の増えるモデルであることは間違いないだろう。

参考
社会的敗北ストレス試験 -製品情報- メルクエストが販売する実験用ケージ。

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